高村光太郎の『能と彫刻美』

高村光太郎の『能と彫刻美』の前に

高村光太郎の話の前にちょっとだけいいですか?

最近、東京国立博物館に来ていた「空也上人と六波羅蜜寺」という展示会を見てきました。

口から6体の仏像が出ているあの有名な像です!(南無阿弥陀仏という6文字を表していると言われます。)

以前から、すごいと思ってました。ついに本物に会えました!

空也上人の姿は360度どこから見ても、今そこで念仏を唱えているようで

彼の姿を目にすることができた人は、さぞありがかったことでしょうね。

彼の生きた時代は西暦900年代。

空也上人像が作られたのは、約400年後。(だから想像して作ったんですね)

能も大きく発展を遂げた鎌倉時代

このような傑作が生まれた時代に、

同質の魅力を内包する「能」という芸術が発展したのは当然かもしれませんね。

でも私は高村光太郎のこの文章を読むまで

それが彫刻美だったと気が付きませんでした!

高村光太郎という人

さて高村光太郎へ。

皆様ご存じ、高村光太郎は詩人・歌人・彫刻家・画家で

芸術を的確に表現できる貴重な人物です。

その高村光太郎が、能楽全集という本の中で

能と彫刻美」という文章を寄せていることに気づき

とても嬉しかったのでご紹介したいと思います。

高村光太郎は能は彫刻美を秘めていると言います。

そもそも能面は彫刻そのものですが、それ以外にも。

私なりに感銘を受けたところを抜き書きしてみますね。

能と彫刻美

「写真は唯一の輪郭に固定してしまう。

彫刻の四面性が殺されてしまう。

人の呼吸に合わせ動いてみえる彫刻の神秘的な動きがない。

さらにこの彫刻の動きがもう少し能動的に動いてくるのが能の動作であるような気がする。

・・・

能は人間の動きの肝心なところだけを抜き出し純化し、

ほぼ動かずに動くということを究めている。

その輪郭を乱さない

そのまま謡えば2〜3年はたちまち経過する。

無駄な動きを一切交えない

我々の日常の動作は曖昧な動きをして

動きの意味を希薄にしている。

能の動きは純粋で強い。

ここまで読んで、やはり能に必要なのは知識ではなく

一つの絵や彫刻の前に座り込みずっと眺めて味わう、

そういう芸術経験ではないかと思いました。

抜き書きを続けますね。

「「山姥」をみた時のこと。

・・・・・彫刻と違うところは、

物そのものが呼吸し、音声を出している点にすぎない。

面にこもって出てくるあの一種の音声が静かに物寂びて、

四辺の空気に深い山林の精気を漂わす。

その中にじっとしているこの造形物はきりりとしまって、よくこなされていて

些少の駄肉もない。

これは彫刻の持つ神秘感をそのまま舞台に見る一例であるが、能における動きのあらゆる場合はこの性質を持っていること言をまたない。」

高村光太郎の文章はそのまま詩のようで美しいですね。

厳しい言葉もあります。

「能の動作の各瞬間が彫刻的一コマである。

それゆえ、面をかけた首に個人的な曲がり癖が見えたり、

上体のグラつきが見えたり・・・すると甚だおかしいということである。」

そうなんです。

役者の度量はいかに違和感なく観客を物語に没入させるか・・・

「それほど厳重な造形であるだけに、

天冠の瓔珞(ようらく:珠玉などを繋げた飾り)が揺れる様子がその煌びやかさは天上のものとなり・・

怨霊の黒髪がふわふわと自然に揺れ動くのがなんとも気味が悪く・・

自然に動くものの方が、能では一種別様な世界のものに見えてくる」

先に書きましたが能面にも触れています。

「舞台で見ると仮面の方が真実の面で、

直面(ひためん:面をつけていない顔)の方が一時的な面のように見える。

・・・

能舞台全体の造形的な空気の中にあっては

瞬きをしない、抑揚の強い能面こそ正常の表現を持つものであり・・・

生き物の人面は甚だしく貧弱・・・

芸術の威力をこれほどはっきり見せられることも珍しい。

能面は、ある(一つの)性格のもののあらゆる場合における表現に耐えなければならず、

ある定まった性格の中核的内面世界の核心を表に表したものとなる。」

ここまで、高村光太郎の文章を私のビビビ(←古い?)と来た部分で

コラージュしてみました。(ボキャ貧をカタカナでカバー)

㊙️情報

ここで一つ、秘密の情報を。

梅若万三郎は能面の選択眼を持っており、呆れるほどの収集家です。

舞台では美術館でもお目にかかれないレベルの能面をご覧いただけます✊

次回お出ましになる際はじっくりご堪能ください!

実際に読みたい方はこちら

青空文庫で全文読めます!

そんなに長くありませんのでぜひ読んでみて😃

私が抜き書きしなかった部分も素晴らしいです!

高村光太郎 能の彫刻美

コメント

タイトルとURLをコピーしました