能『楊貴妃』別れの苦しみ

能『楊貴妃』別れの苦しみ

世界三大美女として知られる楊貴妃。

国を傾けるほどの美女、『傾国の美女』という汚名?も着せられています。

本人の権力欲が強かったわけではありませんでしたが

玄宗皇帝が楊貴妃に夢中になりすぎて

楊貴妃を喜ばせたいばかりに政治的判断を誤ったという面はあったようです。

玄宗皇帝の寵愛を一身に受けた楊貴妃でしたが

内戦の途中、勢力争いの中で

玄宗皇帝自ら楊貴妃に自殺を命じざるを得ない状況に追い込まれました。

玄宗皇帝の悲しみは想像を絶するものでした。

その悲しみを白居易(白楽天)が詠ったのが『長恨歌』です。

そしてその『長恨歌』をもとに金春禅竹が作ったのが能『楊貴妃』なのです。

能『楊貴妃』のストーリー

玄宗皇帝に仕える方士(中国に置いて瞑想、占い、気功などの方術により不老長寿、魂が身体を抜ける術などを成し遂げようとしていた修行者)が登場します。(ワキ方です。)

「・・・我が君(玄宗皇帝)の命で亡くなった楊貴妃の

魂のありかを探しております。」

天上界から地の下まで訪ねましたがわからず

今度は蓬莱宮(仙人の住むという黄金白金の宮殿)へ向かいます。

ここは常世の国

蓬莱宮のある常世の国(とこよのくに:彼方にある理想郷)に着きました。

常世の国の住人に、楊貴妃はいないか尋ねると

玉妃(ぎょくひ:帝王の妃のこと。楊貴妃を指すことが多い)なら太眞殿(たいしんでん)という額のある門の内を訪ねたら良いでしょう、と言われ

中に入って様子を見ることにしました。(ワキ座に着座します)

楊貴妃の登場

ここでシテ・楊貴妃が登場します。

涙にくれ、昔を恋しがっています。

方士が楊貴妃はこちらにいらっしゃいますかと尋ねると、

幾重にも重なる花の柄の帷を押しのけ、玉で飾った簾を上へ引き上げて

姿を現しました。

御髪は起き上がったばかりで雲のように豊かに広がり

顔は花のように美しい。

そして目には涙を浮かべています。

微かな繋がり・・でも

方士は玄宗皇帝の嘆きようを伝えます。

楊貴妃は言います。

「ここまでお訪ねいただくのは情け深いようではありますが

ほんの絶え絶えにお訪ねいただくなら、

かえって辛さが増すばかりです。」と訴えます。

形見の玉のかんざし

方士はお目にかかれたことを急いで帰って皇帝にお伝えしたい、

何か形見の品をいただけないかというと、

楊貴妃は玉のかんざしを取り、方士に与えました。

方士は、これは世の中にありふれたものなので

きっと信じていただけないでしょう。

あなた様と我が君との間で人知れず交わした言葉をお教えください、とお願いします。

二人だけが知る言葉

すると、楊貴妃は

天に登ったら、比翼の鳥なろう。地にいるならば、連理の枝となろう、という約束をしました。

私の身体は馬嵬(亡くなった場所)に留まり、魂は仙宮に至りましたが

もし昔と変わらないお心でしたら、終にお目にかかる時の来るのを

お待ちしています、と伝えてほしい」と言いました。

比翼の鳥・・・古代中国の伝説上の生物。それぞれ1つの翼と1つの目しか持たないため、雄鳥と雌鳥は隣り合って互いに支え合いながらでないと飛ぶことができない、という。

連理の枝・・・木の枝が他の木の枝と癒着結合したもの。自然界においては少なからず見られる現象で吉兆とされる。

方士がお暇を申し出ると、

霓裳羽衣の舞

楊貴妃は、名残惜しそうに、またいつ会えるかもわからない、昔の夜遊びの様子を見せましょうと

霓裳羽衣の舞を見せました。

霓裳羽衣の曲・・・玄宗皇帝は音楽の才能に恵まれ、「霓裳羽衣(げいしょううい)」という能には何度も出てくる素晴らしい音楽を作ったと言われます。玄宗が夢の中で見た天井の月宮殿での天人の舞楽に倣って作ったと伝えられる曲です。

楊貴妃は言います。

「輪廻転生に終わりはありません。

命ある者は必ず死にます。

たとえ一夜の契りを結んだだけでも、別れの名残は惜しまれる物なのに、

私たちの仲は、長い年月慣れ親しんでいたものだった・・

死別というものがなければ、千年も万年も添い遂げようものを。

会者定離、会うことこそは別れなのです。」

楊貴妃が再びかんざしを方士に賜ると、

方士は都に帰って行きました。

楊貴妃は、

「もう二度と我が君にお目にかかることはあるまい。」と

常世の国の宮に伏して留まったのでした。

何も付け加えられない

流麗な金春禅竹の世界に、

何の言葉を付け加えるのも野暮なようで、

この記事はこれで終わりにさせていただきます🍃

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