梅若万三郎家 能面手鑑講座のご案内

面(おもて)は、箱の中で待っています。
面を、手に取るように
能面は、能楽という芸能の中で確立された、独自の造形です。仏像でもなく、肖像でもなく、人が掛けて動くことを前提に彫られた顔。ですから桐の箱から出したばかりの面は、まだ何者でもないような、不思議に静かな表情をしています。それが舞台の上で光を受け、首の角度がわずかに変わった瞬間に、泣いたり、笑ったりしはじめるのです。
今回は、能楽の家に代々伝わる面を、皆様にご覧いただく機会をご用意いたしました。梅若万三郎家では、全四回のオンライン講座「能面手鑑(のうめんてかがみ)講座」を開講いたします。手鑑とは、名品を集めて一覧にした帖のこと。翁から鬼神面まで、能面の世界をひととおり見渡していただく、その名の通りの講座です。
一つの面をひたすら深く掘る講座ではありません。まず全体の地図をお持ち帰りいただくこと。それが今回のねらいです。地図をお持ちであれば、次に能をご覧になったとき、舞台に現れた面がその世界のどのあたりに位置するものなのかが、自然と見えてまいります。
講師は、観世流シテ方能楽師の梅若紀佳と、東洋大学教授の原田香織先生です。実際に面を掛けて舞う側からの視点と、能楽研究の側からの視点。掛ける側は、面の内側を知っています。目の穴から見える視界の狭さ、頬に当たる重み、息のこもり方。研究の側は、その面がいつごろ彫られ、どう呼ばれ、どの曲で用いられてきたかを知っています。この二つが並ぶことで、一つの面が、ずいぶん違って見えてまいります。
4回で、能面の全体像を
第1回、10月12日は「歴史と分類」。能面はいつ、どのように今の姿になったのか。そのうえで、翁(おきな)の面、すなわち白式尉(はくしきじょう)、黒式尉(こくしきじょう)、父尉(ちちのじょう)を取り上げます。「能にして能にあらず」と言われる翁から始めることこそ、能面の来歴を理解するうえで、もっとも大事な鍵となります。翁の面は、ほかの面とは作りそのものが違い、顎が切り離されて紐で繋がれています。その一点にも、能面がどこから来たのかが表れているのです。
第2回、11月9日は「尉(じょう)と姥(うば)」。小尉(こじょう)、三光尉(さんこうじょう)、笑尉(わらいじょう)、そして姥。老いを表す面でありますが、一面一面違った表情を持ちます。細かく分かれている背景には、単なる年齢では説明できない理由があります。老人の姿で現れたものが、実は神であったり、草木の精であったり、遠い昔を語る者であったりする。この尉と姥こそ、能という演劇の性格を物語っています。
第3回、12月7日は「男面と女面」。邯鄲男(かんたんおとこ)、平太(へいた)、十六(じゅうろく)、小面(こおもて)、若女(わかおんな)、増女(ぞうおんな)。男面も女面も、驚くほど細かく分かれ、一面一面が豊かな表情を持っています。よく似ているようでいて、それぞれに担う役どころがはっきりと決まっています。若い女の面がいくつもあるのは、装う女が何人もいるからではなく、少女と、若い女と、神に近い女とを、彫りの深さや口元のわずかな差で描き分けているからです。
第4回、1月18日は「鬼神面」。大飛出(おおびで)、大癋見(おおべしみ)、顰(しかみ)。人ならざるものを表すための面は、非常にバラエティに富んでいます。恐ろしさ、悲しみ、怒り、さまざまな表情を含んでいます。鬼の面を前にして、怖いだけで終わらないのは、そこに人であったころの名残が、どこかに残されているからなのでしょう。
いずれも月曜の夜、20時から21時30分までの90分、ZOOMでの開催です。アーカイブ視聴もご用意しておりますので、当日ご都合のつかない方も、後日あらためてご覧いただけます。定員は80名です。
そして、間近で
講座の締めくくりとして、2月28日の日曜日に「能面装束見学会」を開催いたします。画面越しに学んだ面を、今度は実際に、目の前でご覧いただく会です。
展示は能面が約30面、装束類が100領あまり。第一部は受付11時45分、12時から13時30分まで。第二部は受付14時15分、14時20分から16時まで。各部とも定員30名です。撮影コーナーもご用意しております。
画面で見た面と、目の前にある面とは、まるで別のものです。実物は、写真で想像していたよりも小さく、そして驚くほど軽い。彫りの跡や、塗りの艶、内側に残された手の痕跡まで見えてまいります。講座を受けてから実物を見るのと、何も知らずに見るのとでは、同じ一面から受け取れるものがまるで違います。ぜひ4回をご覧になってから、2月にお運びくださいませ。
箱の紐を解くとき
公演の前に面袋の紐を解き、終われば、また納める。その繰り返しのなかで思うのは、面は使われることで生きているのだということです。箱に納まっている面は、静かに待っています。舞台に出て、人の呼吸を通されて、ようやくその表情がほどけてまいります。
代々受け継がれてきたものを預かる身として、この面たちを、できるだけ多くの方の目に触れさせたいと思っております。ただ大切に守るだけではいけません。今回の講座と見学会は、そのための場でもあります。
受講料とお申込み
料金は税込で、一般の方はレクチャー全4回のセットが1万円、レクチャー4回と見学会のセットが1万2千円、見学会のみのご参加が5千円です。会員の方は、レクチャー全4回のセットが5千円、レクチャー4回と見学会のセットが6千円、見学会のみが2千円となります。入会をご希望の方は、株式会社Umewaka Nohのホームページをご覧ください。お支払い方法の詳細は、お申込みの後にご案内いたします。
お申込み・お問い合わせは、株式会社Umewaka Nohまで。電話・FAXは03-6685-8803、携帯は080-6966-1548、メールはinfo@umewaka-noh.onlineです。公式LINEからもお受けしております。
面は、単なる物ではなく、能楽の命そのものです。その面に刻まれたものを、ぜひご一緒に紐解いてまいりましょう。箱の中で待っている面に、会いにいらしてください。皆様のご参加を、心よりお待ちしております。

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