麹町ロータリークラブで梅若紀佳が卓話をさせていただきました!
令和6年3月11日に紀佳が卓話(会員様向けの小講演)をさせていただくという素晴らしい機会をいただきました。
秋山様からのご紹介でこのような機会をいただくことができました。心より、感謝申し上げます。
また、偶然にも麹町ロータリークラブには私の古くからの友人がおり、その方が卓話がまとめられた記事を郵送してくださったのです。紀佳のことも小さい頃からご存じで当日もとても心強く感じました。感謝の気持ちでいっぱいです。
その内容を私の言葉で書くなら、こちらに載せて良いと許可をいただけましたので、ご紹介いたします。
卓話 ーー 自己紹介
観世流シテ方能楽師の梅若紀佳と申します。
普段、観世能楽堂や国立能楽堂の舞台に出演したり、お稽古をつけたりしています。
舞台上ではシテ方といい、主役を務めており、謡(うたい)舞(まい)を担当しております。
卓話 ーー 謡の3つの魅力
私の考える能の謡にある3つの魅力をご紹介します。
一つ目、「言葉の美しさ」
謡は和歌を題材にしているものが多く、それが美しい言葉につながっており、リズムも五七五からなります。
二つ目、「自分で謡った時の楽しさ」
聴くより謡った方が言葉が自分に入ってきます。
声を出すことにより、深呼吸のように体内に空気を取り入れ出すので、リラックスできます。
三つ目、「思いを乗せて伝えられる」
誕生祝いでは『老松』、結婚式では『髙砂』、桜の時期には『羽衣』、など自分の気持ちを乗せ、誰かのために謡うことができます。
本日は3月11日、東日本大震災が発生した日ですが、鎮魂や弔いの意味を込めて謡うこともあります。
卓話 ーー 謡の声の作り方 私の場合
私が能楽師になろうと決めたのは、高校生の時でした。
能楽師は男性のイメージだと思いますが、戦後は女性も舞台に立てるようになっています。
かつては私も子方(子役)だけして大人になったら別の仕事に就こうと考えていたのですが、能の魅力に気づいてしまい、プロになることを決めました。
謡の声は普段の声と違うというイメージを持たれると思います。
私は3歳から舞台に立ち、24年間、喉を育ててきました。
急に謡の声を出すのは難しいことですが、近づく方法はあります。それは、お腹から声を出すことです。普段の胸呼吸の浅い呼吸を下まで落とし、丹田に力を入れて前に出すイメージです。
私がプロになろうと決めた時も実践していた方法です。
これを繰り返しているうちに喉が痛くなって、喉から血の味がするようになりました。それは謡い方が悪い点があったためですが、その悪い謡い方を経験しないと喉が強くなりませんし、喉に負担をかけない謡い方も学べません。
祖父(梅若万三郎三世)から稽古を受けていた時は、
「血の味がするまで毎日5時間くらい謡い続けなさい」
と言われ、それを実践しました。
成長の過程で、声の厚みが増していくのがわかりました。
皆様にも、声を前に出すことを意識し強くして、謡を祝いの席で披露したり、日々の生活に取り入れていただきたいと思っています。
卓話 ーー 名曲『髙砂』のご紹介
髙砂の地にやってきた神官が、ある老夫婦と出会いある伝説を聞きます。
髙砂の松と住吉の松は遠く隔たっているけれども、老いるまで仲良く過ごすことができたという伝説です。
実はその夫婦が松の精だったのです。
髙砂の松は女性で、能の『髙砂』は神官が髙砂から住吉(その頃は海の近くでした)まで移動しようとする場面です。
その移動が女性が嫁ぐイメージと重なることから結婚式でよく謡われるのです。
卓話 ーー 名曲『羽衣』のご紹介
羽衣伝説を基に作られた1曲です。
能は全国各地の伝説を基に作られたものが多いです。
天女が富士山の麓、三保の松原で水浴びをしていたら、ある漁師が天女の羽衣を盗みます。
羽衣がないために月に帰れず悲しんでいた天女に、漁師は返す代わりに舞を見せて欲しいと頼みます。
祝いの席で謡われる『羽衣』は、羽衣を返してもらった天女がお礼に、国土に宝と幸せを満ちさせて、月へ帰っていく場面が基になっています。
卓話 ーー 今後、能に親しんでいただけますように
本日は能の魅力に気づいていただけたでしょうか。
これがきっかけとなり、能楽堂に足を運んだり、謡の稽古を始めてみたいと思っていただけたら、
幸いでございます。
素晴らしい機会に感謝
当日は、紀佳の謡もお聞きいただき、最初に書きました私の友人に労っていただき、本人も
充実した表情で帰ってまいりました。
麹町ロータリークラブの皆様、素晴らしい機会をいただき、またあたたかくお迎えいただきましたこと、誠にありがとうございました。
ちょっとプラスα
能『髙砂』について。高砂神社には今も「相生の松」と呼ばれる松があります。また、能の舞台で後半に登場する住吉大明神を演じる時につける面(おもて)は「神体」と呼ばれる若い男神の面で、それも見どころでございます。
能『羽衣』の漁師にはなぜか白龍(はくりょう)という名前があり、ただの漁師とは思えませんが、最後まで謎は解かれません。白は陰陽五行の白であろうか、龍は水や英雄の象徴であろうか、時代背景は、と想像を巡らせると能『羽衣』をさらに奥行きを持って観ることもできるでしょう。
羽衣伝説は世界中にありますので、それらと比較するのも楽しいかもしれません。
こちらの記事をお読みいただいた皆様もどうぞ、舞台にいらしたり、お稽古を始めてみたりしていただけると幸いでございます。
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